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プア・アーリー

手のひらにぽんとはたけば紙ふうせん春光のなか便りは届く
そよ風にのせてきたのか細き字はみどり濃くなる欅のしたへ
かにかくに巡る思いの樹の陰を巨きトカゲはひたとあるけり
すそ野からはなたれてゆく山焼きを思へばめぐる風のただ中
ヘアピンをくはへしきみの背景の石の舞台にあはきはなびら
七分咲くソメイヨシノの花陰に髪をたばねしきみは踊り子
乳房を包むかたちの指そろふ乙女の踊るプア・アーリーの詩
黒髪にゆれる白百合歓楽の宴のひとらのまなざしあつく
恋もせよ歌もうたへよ三千の桜はなびらふるはすやうな
そしてまた夢のつづきを届けよとポストの中に降らす花びら
ナイル7月号
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十五年

明け方の体育館にはともしびがあまたゆれをり尋ねたづぬる
田舎にて荼毘にふします貼り紙は懐中電灯のあかりの中に
指の爪はがれた人が歩みきてなみだ拭ひぬわれの泪を
いま沈みあす昇りくる太陽にかはりなけれど 人は還らず
すみれ咲き遥かなる風ふきくれば君の声する お元気ですか
今もなほエースナンバー風に揺れベンチの中に語りつがるる
一目あふことの叶はず時は過ぎありし日の笑み抱へたままぞ
蒼穹をいまし架けゆく虹のごとセロの調べに風となりたり
十五年ほほゑむきみの翳深しあの日のままの若さのなかに
問ふてみたし何を基準になされしかひろがる海に光りさす時
ナイル6月号
花の名を教へし頃の口振りで妻は言ひをり「モクレンの花」
みずいろの空を仰ぎて電話をす娘の恋のハリケーン模様
悲しみを捨て難いのならあのバスへ81系統海沿いをゆく
熱き湯をのの字のの字に注ぎこむ成人の日の娘のために
冬の日の光りのやさし坂道を晴れ着のきみは振り向きもせず
守りたきものがあります少年の見上げる果てのポプラの一樹
遠き日に人を裏切ることのあり黄のカナリア飼つていた頃
少年のわれの愛したカナリアは痛みを告げず森へといつた
さあどうぞ二人わけあふ空間にまねきいれたり冬の夕焼け
モクレンの花のつぼみを眺めゐる妻は些かちひさくなりぬ
ナイル4月号

「湾に月」

湾に月ならむものはならむと言ふ君の唇紅くなりをり
富士山に傾ぐ太陽やはらかし 最後に泣いたのは何時だらう
月の夜に旅へとゆかな砂場にはポカリスエット十度傾け
新月の海にきらめく町の火がとほくにみゆる伊豆半島の
野の路にゆれるコスモス摘む娘 我に一輪きみにいちりん
橙の灯りをかぞへ離れゆくやがてはミラーに映るくら闇
白線の流れに沿つて下る坂つぎなる町の灯りは見えず
前方のテールランプを追ひかけてわたしの眼あかいと思ふ
東名、伊勢湾岸、第二名神 モーニング珈琲は琵琶湖の辺り
うみならばここにもあるさ古臭い台詞のやうに大阪の海

ナイル2月号

「手紙を書くよ」

錆びれゆくアーケードを潜る秋風に乗せてみませう己が靴音
窓の外、乳母車には銀髪の幼児の笑み撫でてゆく風
盛衰の人の流れに従ひて喫茶ナイルに吐き出す紫煙
延々とハネーサツクルを読む午後の素足の先を河は流るる
ゴムの木の青葉に埃うつすらな夢がみえたら手紙を書くよ
たかい鼻あをい瞳の群るるなか喫茶ナイルに行灯ともる
お絞りの黄色が褪せてをりました 記憶の中の花はひまはり
硝子扉は一度行き過ぎその後にカチリと鳴つて役目を終える
遠い日の子供のやうに電球を眺めてゐますマツチありますか
燃ゆる火をたばこに移し夕闇の深まる路地へ溶けるしかなく

ナイル1月号
父さんはバラした銃を組みあげて大事にしろと僕が引き継ぐ
草笛は聚楽館の兵隊さん 子供を掠うってほんとうですか
ひまわりの種をあつめて妹はビンの底からひふみひふみと
恋をしたみたいなんだと姉さんはぺんぺん草を耳元で回す
しょっぱさは耳を咬んだ日ゆう暮のあかんべあかんべの鬼瓦
あの鶏は風吹くままと言うけれど回りまわって白髪の母
象さんの尻尾を掴みきりんだとあの娘は泣いた 二十四の春
かん缶に思いをつめて蹴飛ばして靴まで飛んで青空である
すんだ眼の勇紀の為に組み立てる父にもらった輪ゴムの銃を
なんだろね今夜の月はきれいだわ ひとつの窓に四人が揃う

「ナイル12月号掲載歌」

紺青に

紺青に「私の母よ」谺してわたしは背負ふわたしの母を